ふるさと昔っこ(畑則子)
三人婿の舅礼
昔横手のある家にたいした金持ちで娘っこ三人居だっけど。上の二人なばんしょ、まんじまんじ良え女子で、ひとりまだ湯沢の金持ちさ、ひとりまだ大曲の金持ちさ嫁っこなったども、三番目の娘っこは醜いので山の炭焼きさ呉れられだけど。
ある時の正月礼の時、三人の婿たちしゃ、正月礼に来たど。湯沢の婿まだ商売柄だとって鮭っこにハタハタにきんきんに鱈に蟹にそれに鯉鮒まで、正月の魚どっさりと積んで、そしてしゃ来たけど。この男まだ小太りだども眉毛っこのキリッとした、なんてかて渋いくらっくらっするような声こ出す男だど。湯沢・・・来たけど。これも商売柄だどて桐生、伊勢崎、塩原って有名な所の反物がら赤い布団こまで、馬橇さ山ど積んできたけど。この湯沢の婿まだしゃ、真に色白で鼻は高いし口はまわるし、なんてかてこれも良え男前だっけど。
『まーんじまんじ、おりゃ家の婿兄達なば、座敷さ座わればしゃ、お江戸の役者よりも良え男前だ、ホッホッホ。』
だとて姑婆さんよ、まんじ若い声っこ出して褒めでら時、何も無いしてよ、三内のあんこ来たっけど。炭背負ってな、嫁っこで二人してしゃ山がら歩いて来たけど。座敷さ座ったば、
『まんち、おりゃ家の山のあんつぁなばや、黒い顔さ黒胡麻など付けで、ホッホッホ。』
なんて云えば、大曲ど湯沢
『んだんしなー。』
なんて胡麻するなだけど。
夜になった。お膳んこさ座わったば、なんと大曲ど湯沢さば鯉鮒のお吸い物、山のあんこさば塩辛い鮭このとぎ汁さ大根入れで食わせだけど。
夜になって泊まったど。山のあんこしゃ、なんと布団こふかふかじしてしゃ、寝付けないで表さ行えってしゃ、小便しに行ったど。したばな、雁四五羽飛んできたけど。慣れだおで、棒きれ振り回してばーんとやったば、雁二羽落ぢできたけど。
『ホッホー、雁や。』
そのままどだっと戸の口さ置いで寝だど。
この金持ちの親方しゃ、年中早起ぎで家の周囲回るなだけど。今日も元気にガラーッて戸を開げだば雁二羽も居だんしべ、喜んで親方、座敷の方さ向かってな、
『昨夜の手柄誰立でだー。』
叫んだど。婿たち寝ぼけまなごで起きてきたども、誰もボヤーッとしてだけど。
『ん、このな雁しゃ、昨夜捕ったただな誰だべしゃ。この手柄誰立でだなだ。』
『おれだんし、あの昨夜な小便しに行った時捕ったんした。』
山のあんこボサーッと答えだけど。
『おー、おめぁたいしたものだやな。今夜雁汁にすべな。』
親方まだ喜んだもだけど。その夜もしまたども、なんと今まで大曲ど湯沢さばり心配してえだ姑婆さんど親方、まじころっと手の平返したよに、
『ささ、山のあんつぁ、飲んでたんしぇ食べでたんしぇ。』
とで、山のあんつぁさばり心配するもだけど。大曲ど湯沢さばたれ構わ無いけど。
その夜も泊まった。そのばんげも泊まったばな、まだ寝らえねぁがった、まだ表さ行ったば、こんだな、梟に追われだ山鳥飛んで来てな、かごえのかやさグジュグジュって頭ささって死んでらけど。
『ホッホー、山鳥や。』
まだ首たこ、まだ生ぐれば困るだとて、首こキュッキュッなて絞めでしゃ、戸の口さ置いで寝だど。
まだ次の日、親方喜んで見つけでな、
『誰だ、ゆべの手柄誰立でだー。』
って、叫んんだどもまだ昨日みでぁに誰も返事しねぁ中、しばーらぐ経っでがら山の婿ざノソーッと、
『おれだんし。』
『おーっ、おめぁが、ながながたいしたおだ。二晩も続げで他人が寝でる時大手柄。今夜ば、しぇば山鳥のかやぎっこにするべ。』
なんてかて喜ごんだけど。そして山のあんこさばり心配するもだがら面白くないのは大曲ど湯沢さけど。
『あや、あの田舎者の野良婿、まだきっと今夜も何がやるだんてしゃ、今度な親方大声上げだら、あの野良返事する前におらだだって云うべしや。』
相談したっけど。その夜も、なんでかて山のあんこしゃ、食い慣れねぁご馳走三晩も続くごたば、腹はしるだが、屁ーでるだが、とでも我慢でぎねしてな、表さ走ってえったど。でもしゃ。間に合わねぁして戸の口さぽとんとしてしまったど。んだども酒っこ酔ってるもだがら、片付けるにも明日にすべぁ、と寝だど。
その次の日の朝、親方戸の口さ行ぐより早ぐ、顔しかめるだが鼻つまむだが、
『うっ、昨夜の大手柄誰立でだー。』
って座敷さ叫んだば、大曲ど湯沢、
『はいはいー、おらだだんしおらだだんし。湯沢だんし、大曲だんした。』
『なんだお前達が、犬っ子よりたれぁおどる。さっさと片付けれ。』
って、ひとの垂らしたうんこ片付けらせらえだど。おまげに、
『こったなうつけ者さな嫁な呉れでりゃえね。』
って、娘まで取り返えされでしまったど。
ずーっと後がら聞いだ話しだども、こごの家でしゃ、三番目の末っ子ど山のあんこど跡取りにして、今でも横手の前郷辺りだが、南小学校の辺りだが、たいした良ぐ繁盛してるんしど。
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