ふるさと昔っこ(畑則子)
螺太郎
むがーしむがしある所に爺さど婆っぱと居だっけど。たいした仲良い夫婦だったども、子供いなかったど。爺さと婆っぱな、つぶみたいに小さくてもよいがら、なんとかわらしっこ授けてたんしぇ、って観音さんさお参りしたっど。その帰り道、堰のふち通ったば、
『ホギャー、ホンギャ、ホギャー。』
どて、赤子の泣き声するおだど。
『アラアラなんだべこんな所で。』
爺さと婆っぱ喜ごんで拾ってみだばしゃ、螺の中さ真っ黒え顔した赤子しゃ、ホンギャだとて泣いていたなだけど。
『アラー良かったごど。これなばきっと、神様のお授けだばさ。』
って、家さ連れで帰ってな育でだど。
螺がら生れだがらしゃ、螺太郎という名前にしたど。螺太郎まだしゃ、ご飯なばいくらでも食べるのに、背丈なばいつまも成らないおだけど。んだども、たいした賢しいわらしこに育っていったけど。
ある日の事、爺さま山さ木切りに行ったど。
『婆っぱ、馬っこ出してけれ。おら、爺さどご迎えにえぐ。』
『なんっだどて螺太郎、お前しゃ、どんな風にして馬っこ引っぱてえぐと。』
『婆っぱ、おれどごな、馬の耳の中さ入れでけれ。耳の中がら声掛げる。』
婆っぱしゃ、納屋がら馬っこ引っぱてきて、螺太郎さ手綱持たしぇでな、耳っこの中さコトッど座らせだど。
『ハエハエ、ドードー。』
なんてしゃ、おそろしねぁ上手に馬っこ引っぱてえぐおだけど。
今日みでぁんだ天気のええ日でな、気持ちよくなった螺太郎しゃ、ほれぁ頭っこ良いだがら、爺さま歌ってら馬方節しっかりと覚えでしゃ、馬の耳っこの中で歌いだしたおだけど。歌ってもいいでしょうか。(拍手)
♪ハァーあべやハイハァーこの馬ハイ
急げや川原毛ハイーハイ
(こごで拍手してもらわねぁど、・・・)
ハァー西のハイハァーお山にハイ
アリャ陽が暮れるハイーハイドード
(拍手)
町の人達しゃ、
『あらら、馬っこ一人して唄っこ歌ってえぐでぁ。』
って、珍しがって見でだど。
旅の商人二人な、その馬っこの後ついでったど。山さ着いだば、
『爺さま、降ろしてけれ。迎えにきた。』
あらーっ、唄っこ歌う馬っこ都さ持ってたば、どんなにか儲がる、と思ったども、馬っこどごろでねぁ、あのわらしっこ売ったら、なんぼって儲がるべなや。なにしろこんな小さなわらしこだがらな。旅の商人、爺さまどさ言ったど。
『んなや爺さま、あのしゃ、そのわらしっこ俺達しゃ譲ってけれ。銭こなばいくらでも払うてがら。』
『なにゆってるでぁ、これなのおれぁの大事な一人息子だ。譲るわげにはえがね。』
『銭こなばなぼぼ出すがらよ。』
したば螺太郎、爺さまの耳元でな、
『爺さ、爺さ、売ってけれ俺を。おれどさ良い考えあるがら。』
って言ったけど。爺さしゃ、商人がら銭こ沢山貰って、ふとごろさゴトッと入れで、家さ行ったど。
螺太郎まだ商人の肩さペコッて座らされでしゃ、都の方さ連れでえがれだど。しばらぐ経ったばな、
『小便出る、小便出る、降ろしてけれ。』
って、肩ででんづぐど。
『なーんと、こんな所でしゃ、小便など垂れられだら、とんでもない。』
と思ってな、
『ほら、小便してこい。』
って、草叢さヘロヘロって出してやったど。
『さー、しめたもんだ。』
と螺太郎、なーんと鼠穴っこさ隠れでよ、何時までも出でえがねぁけど。小さいだがら、なぼー探したて見つけれないで、商人諦めて家さ行ったけど。
そして行くところを確かめでがらな、ドーンガドンガど家さ戻ったど。したば爺さど婆っぱど、
『えぐ戻ってきたな、螺太郎。』
どて、おおよろごび。あぎんどがら貰った銭こで、三人して幸せに暮らしたど。トッピンパラリノプ。
それなば詐欺だべしゃ、なんて余り難しぐ考えねぁで・・・
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