ふるさと栄会

ふるさと昔っこ(畑則子)

情げの涙

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むがしあるどご大層たいしたなが良いええわが夫婦だっけど。んだども、一寸した風邪引いだもどでな、嫁っこぁ死んでしまったど。死なれでみだばこのおどごぁ、なんてがて情けやじゃねぁぐて情けやじゃねぁぐて、仕事しごどどごろが、三度に三度の食事まま食え無いねぁくりゃやづれだもんだけど。

そんなたある日にな、
「どうが一晩泊めでたんしぇ。」
って、そのおどご戸口とのぐぢさ、若いわぎゃきれいな娘っこ立ったけど。
「なんだとでなんだとで、俺なのえましゃ、かがねぁぐしたばりで、とでもでねぁども、おめぁみたいみでぁな人泊められねぁ。赤いあぎゃ布団こも無いねぁし、ご馳走ごっつぉーするごど出来ないでげねぁ他所よそってけれ。」
そんなしたごど言わ無いねぁで、のぎ下だて良いええがら泊めてたんしぇ。」
そうわれでしゃ、可哀そうにむぞつらしぐなって、一晩泊めだど。

次の日の朝間、おどご目覚ましたば、台所みんじゃの方で、トトトトントトトトンってしゃ、まな板叩くただぐおどするど。あやー、かがあ死んでこのかだあんあだおどっこ聞くなも久しぶりだなやーって、おどご台所みんじゃさ行ってみだばな、
「夕べな、泊めて貰ったお礼だんし、朝間のご飯ままざめさせてたんしぇ。」
って、ご飯作りままこしゃしてらなだけど。久しぶりで美味しいうみゃ朝間のご飯まま食べでしゃ、二人ではなしこしたば、何処どごさもく当でも無いねゃ、というごど分がってなー、二人はそのうぢ夫婦になったど。昔っこ早んしべ。

夫婦になってしばらくしたば、嫁っ子腹大けぐなったけど。そしてしばらく経ったば、
「おら、産むなす時期じぎ来たがら、小屋っこ拵えこしゃでたんしぇ。」
「なーんに子供わらし産むなすどて、小屋っこなどで産まなさねたって良い、座敷の真ん中でな、威張えばって産めなせ良いのえなだ。」
「んだたて、小屋っこ拵えこしゃでたんしぇ。」
あまり言うものだがら、小屋っこ拵えこしゃでけだど。そしてま2日ばり経ったばな、
「おら、産気づいてきたんし。この中さひゃるんし。確りしたっと約束してたんしぇ。おら7日なのがすれしぇば、赤ん坊ぼぼこ産んでなしてでひゃって来るがら、それまでの間、どんななただごとあったたて、小屋っこば覗がねでたんしぇな。」
ってったけど。

「分がった分がった。」
約束やくそぐして、2日が3日なばな、
んでだどごだべな、苦しんせぢなんでらべなやー。」
って心配しんぴゃしたど。んだども、4日5日経ったて中々声っこだら一つでひゃってくるもで無いねぁもんだがら、なんてかて案じこだなって、居でも立ってもらえねゃで、見るなって言われだのも忘れで、小屋っこの周りがら、回って歩いありて、この位こんきゃばしちゃっこい節穴っこ見つけだけど。そしてその穴っこがら覗いだど。そーしたば、小屋の真ん中さ、大っき蛇とぐろ巻いで、その真ん中さ、男の赤ん坊ぼぼこポチャラっと座って、ニカニカと笑ってたなだけど。
「はーっ、蛇だ蛇だ。どうなじしたらがべ。どうなじしたらがべ。」
なんてがっておどご吃驚どでんしたど。でも考えだ。
「俺だげ我慢せばなだ。なんであろうど、情け交わして子供わらしこまで出来てでげでしまったおなごだ。俺だげ我慢せば良い。」
腹決めでしゃ、嫁っ子でひゃってくるの待ったけど。やっぱり7日なのが経ったば、赤ん坊ぼぼっこ抱いで出できたっけど。そしてな、
「あん約束やくそぐしたのに見でしまったんしな。この赤ん坊ぼぼこさ魚太郎って名前なめぁ付けで、泣いだらこれしゃぶらせでたんしぇ。」
って、自分わーみんぎ目玉まなぐたまぐるんといで、おどごの人さわだして、
わだしはこの山奥の沼さ住んでる蛇だんし。正体知られでしまったがらには、貴方あんだと一緒にるごと出来でげねんし。どうが、赤ん坊ぼぼこ上手に育てでたんしぇ。」
はらはらと泣ぎながら、山奥の方さ行ったど。

おどごまだしゃ、泣げばこの目玉まなぐたましゃぶらせしゃぶらせ、してえだども、間もなくそんまおもったば目玉まなぐたまぼっかれでねぁぐなってしまったけど。赤ん坊わらしぁー泣ぐべし、乳も出ねぁべししゃ、どんななたごとしたら良いが分がらねぁして、そのおどごまだ、魚太郎どこってな、山奥の沼さ行ったど。そして沼の畔で、
「魚太郎の母さんあばー。魚太郎の母さんあばー。」
さがんだど。そうしたば、沼の水っこタパタパタパ−、ってうごえだとおもたば、沼の中がら片目の目玉まなぐたまつぶれだ蛇、姿すがだ現したど。
「何しに来たー。」
「なんとおめぁがら貰った目玉めんたましゃ、ねぁぐなってしまうし、この赤ん坊わらし泣ぐだがらしゃ、どうなじしたらえが分がらねし、訊ぎにきた。」
「んだら、もう一つ目玉まなぐたまやるがら、それ舐めらせでたんしぇ。」
って、今度は左の目玉まなぐたまぐるっとえで、血だらだらと流しながら、
わだしはこれで坐頭ざどうの蛇ぃなってしまった。明げだも暮れだも分がらねぇんし。魚太郎の年っこ数えかぜるごとも出来無でぎねぁぐなったがら、どうか鐘撞き堂建でで、とぎ知らせてたえな。」
そうって、沼さ入って行ったど。

この父親おどまだ、早速鐘撞き堂建でで、明六つ、暮六つのとぎ知らせたんだど。そうこうしている内に、魚太郎はまたまだ大きぐなってなー、十歳位とうばり男の子おどごわらしになったど。たいした頭っこの良いええ元気だ子供わらしっこで、夏のある日のごど、おどどさ訊いだど。
父さんおど、皆どさ母さんあばだ。俺どさなんでなじして母さんあばねぁなだ。俺の母さんあば何処どごだ。」
まさが、おめぁ母さんあばは沼の蛇だなど教えらおしぇれねぁでだったど。んだども、魚太郎さ、
父さんおど、けだものだって何だって良い、もしかしたら蛇だったて何だって良いおらあばと名の付ぐものあったら、連れてくるがらがべ。」
「俺なば良い。おめぁしゃでごったば、俺なば良いがら、んだら行ってみるだ。」
教えおしぇでやったど。

魚太郎な、その沼さ行って、
「魚太郎の母さんあばー、魚太郎の母さんあばー、何処さだー。」
さがんだど。そしたば、また沼の水っこタパタパタパーっと波打ってしゃ、両目の潰れた坐頭ざどうの蛇つら出したけど。
母さんあばー。」
魚太郎まだその蛇の首さとっつかまったど。そしたば、魚太郎の右の目玉まなごがら落ぢだ涙っこ蛇の左の目玉まなぐさ落ぢで、左の目玉まなぐがら落ぢだ涙っこ蛇の右の目玉まなごさ落ぢだど。蛇は両目パタっと開いで、その途端、魚太郎のあばの姿になったけど。
母さんあばー。おー、魚太郎だど。良がったなー。」
二人は泣いで喜ごんで、さ帰って来たど。その頃父さんおどまだしゃ、蛇など連れてつできたら、檻っこでも拵えこしゃえでかわりにかぐして檻っこ拵えこしゃえでだば、なんと山の方がら二人揃って来たべ。たいした喜んで、親子三人幸せに暮らしたど。

本当はこの蛇元々もどもど人間だったなだんしど。んだども、山のがみ様の呪いにあって蛇にされてしまったなだど。んだどもその呪いは人間の情げ受げれば、まだ人間の姿になるっていう呪いだったど。男の情げ受げで子供わらしこまで産んだなしたども、見るなってったな、見られだが為に、まだ山のがみ様のいがりに触れで蛇の姿にされてしまったのだど。んだども、最後は吾が子の情げの涙で、もどの人間になるごどができました。そう、がったんしなー。トッピンパラリノプ。


↑タイトルの画像は?
掲示板に投稿された「議事堂周辺の大屋梅」、投稿記事【22】、の写真を元に加工されたものです。

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