ふるさと昔っこ（畑則子）

婿むごのあいさつ

昔むがしある所どごさ、少しさっとがほぢ無ねぁ男おどご居たえだもんだけどよ。年頃なって嫁っこ貰って三日ばかり経って舅礼しゅどれに行くえぐ事ごとになったど。婿むごぁ嫁っこさ訊いだけど。
「お前おめぇの家えさ行えったらしゃ、俺おらぁなんと挨拶あいさづしたら良えがべ。」
嫁　っこなー、
「あのー、今えまなば芋えもの子ごの時期じぎだんしがら、芋えもの子ご褒めれば間違まぢがい無ねーんし。」
ま　だ三日目だがら、ほりゃ、こーやってな。
「ホァ、芋えもの子ご、俺おらぁ大好きだいしぎだ。んだどもしゃ、何となんて言ゆって褒めると？」
「あのー、芋えもの子ごってぢものは良い物ええもだんしな。親の芋えもの子ごまだ煮付けにづげで食けば美味いうみゃし、子っこの芋えもの子ごまだお吸い物っこにして食けば美味いうみゃ。茎じぐまだ茎じぐで後あどから役やぐに立づし、葉っぱこだったて、小豆ご飯あずぎまま包くるんだりしぇば役に立づ。芋えもの子ごってぢ物もんは良い物ええもだんしな。と、褒めれば良いええんしおな。」
「ホァ、簡単じょさねぁしぁよ。んだどもよ、それしゃ、あのー、何時えづ言うなよ。」
「あやー、んだら俺おらら、あんさの着物の袖っこさ紐っこ結付ゆつけておぐがら、それピクッと引っ張った時どぎ喋ってたんしぇ。」
嫁っ子の実家さ行えった。少しさっとが変った婿むごだとてしゃ、婿むご見に沢山じっぱり来てだけどしゃ、呼ばれもしねぁのにしゃ、まわりの人達らぢ。母あばまだ母あばでしゃ、娘始めで舅礼しゅどれに来るどて、手さよりかげで芋えもの子ご料理どばーっと拵らこしゃえで、お膳こ並べでらだけど。皆座ねまって祝い事いわぇごど始まったごでぁ。婿むごはよ、一番始めにお吸い物椀この蓋っこ、こーって取ってな、箸持ってたぎぁえでしゃ、椀っこの真ーん中ながにある真っ黒い丸こい芋えもの子ごさジョギッと箸さして、
「・・・・・・ウーン、美味いうみゃごど、美味いうみゃごど、トロラっとしてよ、やっぱり芋えもの子ごはてぢぶじ芋えもの子ごに限るな。」
なんて、嫁っこの里さど褒めだ位ぐりゃにしてだけど。その内うぢほら嫁っこ、嫁っこなって三日てば、母あばどさ喋りでや事ごど一杯えーっぴゃあるんしおな。俺おらも、んだったども。皆さんだって、んだったんしべ。母あばまだ聞きでやお。
「どんななんぢだっけ、朝間に早く起きだっけか、めっこ飯ままなど炊がねぁがったべな、味噌汁おじけっこしょっぱいぺどて怒おごられねぁけが。な、あんこ、あんこ晩げになったごとしたけど。」
ま　、こんた話しだば訊がねぁがったがも。そうやって喋ってるこまねゃだけど、春に生れだ三毛猫の子っこしよ、婿むごの紐っこさじゃらけで、テテーッと引張ったけど、婿むごまだ、あだりほどり構わずかまわねぁぐジョギーって立ってな、
「芋えもの子ごってぢものは良い物ええもだんしな。親の芋えもの子ごまだ煮付けにづげで食けば美味いうみゃし、子っこの芋えもの子ごまだお吸い物っこにして食けば美味いうみゃ。茎じぐまだ茎じぐで後あどから役やぐに立づし、葉っぱこだったて、小豆ご飯あずぎまま包くるんだりしぇば役に立づ。芋えもの子ごってぢ物もんは良い物ええもだんしな。」
ぺチャッと座　ったけど。
「あらーっ、あの婿むごだば、ながなが、まどもな事ごど言ゆってるんしゃ。」
親戚てまりの人達ひどらぢゃ喜ごだけど。その内うぢほりゃ、酒さげっこご馳走ごっつぉなったば小便しょべ出でゃぐなって本家の父つぁ、「不調法ぶぢょほう不調法ぶぢょほうー。」なんて、こうして婿むごの後ろ通っだ時どぎ、その紐っこさ知らねぁでデギャーと上がってしまった。まだジョギーッと立ってな、
「芋えもの子ごってぢものは良い物ええもだんしな。親の芋えもの子ごまだ煮付けにづげで食けば美味いうみゃし、子っこの芋えもの子ごまだお吸い物っこにして食けば美味いうみゃ。茎じぐまだ茎じぐで後あどから役やぐに立づし、葉っぱこだったて、小豆ご飯あずぎまま包くるんだりしぇば役に立づ。芋えもの子ごってぢ物もんは良い物ええもだんしな。」
ぺタッ。酒さげっこご馳走ごっつぉなって、口くぢ回るけど。なーんと、２回ばしなば良えがったどもしゃ、何度も三度もこんた事ごどやるもんだがら、とでも嫁っこ呉れけでりゃえねぁな、って、親戚達てまりだぢ集まってるもんがら、相談な、早ゃけど。んだども、嫁っこ言ったけど。
「父おど、母あば、本家の父つぁ。俺おらぁな、芋えもの子ごみでゃに醜いみでゃぐねゃたて、俺おらぁ家えのあんチャ俺おらどこたいした大事にしてけるおな。俺おらぁ、実家えさな戻りでゃぐねゃ。あんチャと一緒に居でゃんし。」
そう言ゆって、まだなんとか家えさ戻って幸せに暮らした、だが、どだが知らねゃども。トッピンパラリノプ。